妊娠小説
妊娠小説斎藤 美奈子
おすすめ度 ★★★★★
★★★★★ 2006-06-08 「文芸評論家」斎藤美奈子の衝(笑?)撃のデビュー作
毒舌と笑いの批評家斎藤美奈子の衝(笑?)撃の処女作。「妊娠小説」という定義と言葉、とにかく視点が新しかった…というかこんなこと誰も考えもしなかったであろう。たぶん違うだろうが、彼女はこの一作のために「文芸評論家」を名乗ったのではないかと思えるくらいの内容である。
「妊娠小説」の定義、森鴎外の「舞姫」から始まる妊娠小説の歴史、その仕組みと内容、とにかくよく考えられている。特に「妊娠小説のしくみ」「妊娠小説のなかみ」の章はよく練られている。そして面白すぎる。
解説にも書いてあるが、この作品の発表後、彼女はある文芸誌のもと編集者に“文学はこんなふうに読むものじゃない”としかられたそうである。とにかく「妊娠」に批評の的を絞りその作品全体の批評は殆どしていないので、そういう言い方もされるのだろう。しかし、小説をどのように読むかは人それぞれなのだから、こんな批評があってもいいはずである。しかも、それがかなり的を射ているだから。
批評家だとか評論家が書く文章は回りくどくて難解なものが多い。簡単な言葉で済むものもわざと難しくしているんじゃないのか、と思ったりする時もある。著者の批評には難解な言葉や言い回しはなくわかりやすい。例えの上手さ(評論家としては大事な資質だと思う)、斬新な切り口(斬新過ぎるときもあるが)、そして何より深刻ぶってけなすのではなく笑い飛ばしてしまうような余裕がいい。
著者はフェミニズム論者と思われているようなふしがあるが、本当にそうなのだろうか。この作品での分析(批評)の態度もそうだが、私にとって彼女は“性別に関係なく”鋭い突っ込みをみせる批評家であり、批評の中でけなされた作品でも読んでみようと思わせる優れた書評家である。
★★★★★ 2005-10-06 「目からウロコ」の点だけでも。
★×5,そう評価できる文芸評論です。
かなりのデフォルメをすれば,「なぜ望まない妊娠で悩む前にアレをつけない?」というまっとうな考えの下,森鴎外を「父」,島崎藤村を「母」と定義し,現代の小説までをばさりと切りつけていきます。ある時代において,どのように,男性/女性は望まない妊娠を捉え,その後どのような行動をとるのか。それは,どうしてか。あの村上春樹も例外ではありません。
この本,および著者を「フェミニズム」で片付けるのは,やや単純ではないかなと思います(ちなみに,私は男性です)。著者は,別の本で上野千鶴子のセンスのなさ(確かにそうだ)を論じ,また「対男性作家」というにはより幅の広い視点で,さまざまな本を書いています。本書では,女性の採る態度もクールに分別しています。
「彼女が『文芸評論家』を名乗ることには,相当の覚悟があっただろう」と,別の評論家は言っていました。現在の文芸を考えるとき,彼女はいま<主流における異端>ではなく,むしろ<傍流とされる正統>の場において評論活動をしていると私は捉えます。「私は『血中文学濃度』が低いから」(斎藤美奈子),この言葉の裏にある姿勢は明らかです。
彼女の他の著書を読むことで,フェミ論から離れて読みたい方へ。特に私は『脱文学と超文学』(「21世紀文学の創造」4,斎藤美奈子編,岩波書店,2002年)が,編集ながら好きですね,お薦めできます。でも,「イワナミだからやっぱり……」との声も響いてきそう。
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